「やっぱり中国! だから中国!」 目次および概要  

目 次 概 要

1.挫かれた第一歩
2.桜の木の下の文化
3.のびたカエル
4.過剰管理
5.一人っ子政策の悲劇
6.オンナを捨てれまっか?
7.医食同源
8.なりさがり根性
9.ええ格好しい
10.働いてやってもいいわよ!
11.「タダ」より高いものはない!
12.男の嫉妬
13.生きてるだけで丸儲け
14.のらりくらり竹のごとく
15.衝動買い集団
16.愛より金
17.マクド天国
18.マメマメ上海男
19.モテル男の三ヵ条
20.ことわざの妙
21.気になる御御足
22.エッチはご自宅で!
23.最高にかわいそうな人
24.十三億の政治評論家
25.この国のかたち
26.苦悩の人
27.不倫は文化
28.上海雑感
29.オレはオマエと違うで!
30.イイ女
31.死んでも言わぬ
32.女は飾り物?
33.ある女たち
34.褒め殺し
35.私がお先!


 中国という国、それは私にとっては見果てぬ夢に似た憧れの国だった。

近いのに手が届かない遠い国、そんなイメージの中で作られた中国はいつも素晴らしく、魅惑的な眼差しで私を捉えて放さなかった。
 
ある朝日新聞の中国関連の記事から中国に興味を持った中学生の私は、偉大な中国文学者、魯迅の小説に傾倒する高校生となった。

 大学生になってからも、専門学科の研究そっちのけで中国人と交流、そして中国文学や中国思想史の研究に時間を費やした。ただ、そのときの私には中国で就職するという冒険をおかす勇気もなく、日本で普通のOLとなった。 

 しかし、堪え性のない私は、毎朝同じ時間に電車に揺られて通う会社生活とただ漠然と過ぎゆく時間の重さに耐えることができず、ある雪の舞う寒い日、西安へと飛んだ。

 ところが、そんな私を待ち構えていたものは、二十七年間日本で培ってきた価値観を覆す出来事ばかり。「不思議」の気持ちが「不可解」となり、「不愉快」で終結するのにそれほど時間はかからなかった。

中国人と交流する度に、そして共産主義国家の非人間的な政策を目の当たりにする度に、私は「どうしてこの国の国民はこんなことをするのだろう、言うのだろう」と疑問に思い始める。その気持ちは私を中国人の国民性研究へと駆り立てた。

もうこのときには見果てぬバラ色の夢は冷め、中国という国は過酷な現実の世界となって眼前に立ちはだかっていた。まるで西安の灰色の冬空のような寂寥感と嫌悪感を帯びて……

 夢とはいつも残酷なものである。
 しかし、それは現実の世界に対すると色褪せるが、自分の人生に予想をはるかに超えた彩りを添えてくれるものなのかもしれない。


 本書は、「中国人の国民性の探求」という視点から捉えたエッセイである。中国という国が、どんな色彩の絵具で描かれているのか、そんなワクワク感を抱きながら読んでいただければ幸いである。


 「やっぱり中国! だから中国!」 内容抜粋 

本書「8.なりさがり根性」より

 
 西安に住んでいた頃、独り暮らしの寂しさもあり真っ白な目のクリクリとした小犬を飼っていたことがある。
 中国にも日本同様ペットショップがあるのだが、表通りに面した正規のお店では三十元(一元=十三円)の犬が百元、ときには二百元で売られているため、私は裏通りの非正規のお店で子犬を買った。

 非正規の店では、注意していないと病気持ちをつかまされたり、雑種なのに血統証付きだと言って吹っかけられることもあるが、私は元々雑種の犬がほしかったので、そんな手にも引っかかることなく、立ち食いうどん一杯分の値段で「シロ」を手に入れることができた。

 私はシロを祐木家の番犬にすべく超スパルタ教育を行うことに決めた。なぜならシロは強情で腕白なオス犬であり、みっちりしつけない限り私の手におえなくなると感じたからだ。ところが、家に連れ帰ると、お店の小さな檻の中できちんとお座りをし、クンクンと鼻を鳴らしていたあの姿はまったくどこに行ったのだろうというぐらい元気なのだ。

友人を呼んで祐木家デビューを果たしたその日からシロは家の中をかっけり回り、布団の上には平気で上がるわ、巨大ミミズと勘違いしたのかテレビのコードを両足で捕まえグチャグチャ噛み始めるわ、どんどん腕白で頑固な本性が露になってきた。いや参った。ペットショップのオヤジに騙されまいと一生懸命だった私は肝心のお犬様がネコをかぶっているとはつゆ思わなかったのだ。中国は人間のみんならず犬もお芝居上手なのだ。

 シロが祐木家にきて半年経った頃のある昼下がり、私はアパートの前の広場で動くものなら何でも追いかける堪え性のないシロに「待ち」の訓練を施していた。と突然、事件は発生した。

何度教えても分からないシロの足を縄でしばいていた私に、突然見ず知らずのオバサンが近寄ってきて、「この犬は私のイヌだ。一週間前からいなくなっていたと思っていたら、オマエが盗んでいたのか!」と大声で叫んだのだ。唖然としている私に「泥棒、泥棒」と言い続けるオバサンの声に野次馬連中が集まってくる。本当に中国人という国民はヒマで好奇心の固まりだ。頭にきた私は、このウソつきオバサンに向かって激しい口調で言い返した。

「あんたはウソをついている。シロは私のイヌだ。文芸路のペット市場で買ってきたんだ。」

「他人の犬だからそんなにひどく叩いたりしていじめるんだろう。自分の犬にそんなことをする残酷なヤツはいない!」

なんとオバサンは、赤ら顔をさらに真っ赤にしてわめき出した。すると私たちを取り囲んで見物していた中国人のオヤジが「そりゃ、オバサンの言うとおりだ」と頷き私に向かって悪徳代官顔負けの形相で、「小娘白状しろい! オマエが盗みをはたらいたんだろう」と言ってきたのだ。他の野次馬連中も私に非があると言わんばかりに口々に私に向かって「泥棒、泥棒」と言い始めた。

「オマエらはいつから裁判官になったんや!」私の怒りは頂点に達していた。

三十人近い中国人VS日本人一人。この状況は私に非常に不利だったが、こんな醜いヤツらの前で屈することは嫌だったのでシロが私のイヌだとどうやって証明しようかと頭を捻った。そのとき、ふっとシロが小さい頃私と一緒に撮った写真があることを思い出し、
 
「私はシロが小犬のときからの写真をたくさん持っている。今から友達に持ってこさせるから見るがいい。それに私はイヌにしつけをしていたのだ!私のイヌを殴ろうが蹴ろうが私の勝手だろ!」

そう言い放って私は韓国人の友達ヨンセンに電話をして、事情を話し、私とシロが映っている写真をできるだけたくさん持ってきてくれるようお願いした。

彼が来るまでの時間、私はこの泥棒ババアと悪徳代官ジジイに向かって、「今友達が証拠写真を持ってきてくれる。誰がウソを言ってるかこれではっきりするだろう」と言ってやった。

十五分も経った頃だろうか、ヨンセンが写真を持って友人と現れた。私たちは私を泥棒呼ばわりした連中に写真を見せ、

「ウソをついてるのはあのオバサンだ。ウソをついて私のイヌを盗もうとしたのはあのオバサンだ。公安局員(中国の警察官)を呼んでやる!」と言い放った。

 すると不思議、さっきまで私のことを泥棒扱いしていた見物人たちが潮が引くように現場から離れていくではないか。きっと私に三人もの味方ができたのと証拠写真があると分かり、この騒ぎを見物するのが急につまらなくなったのだろう。

 おまけに、あの泥棒オバサンまでもが、「こんなに犬を引っぱたいて。これではあまりに犬がかわいそうじゃないか。私はキャンキャン鳴く犬を見てかわいそうになってそう言ったんだ」と突然動物愛護者に変身して言いわけをし始めるではないか。そして見物していた他の人たちと「残酷ネエ、かわいそうネエ」と言いながら私たちから離れて行ったのだった。

後に残された私たちは、ただ今しがた目の前で起こった出来事が信じられなかった。韓国人の友人たちは逃げるように散っていった中国人に向かって、「中国人はホンマ嘘つきだ! 平気で人を騙すやつらだ!」と大声で何度も怒鳴った。

 私は今回という今回は、ホトホト中国人に呆れかえってしまった。ウソを平気でつくオバサン、わけが分からぬくせに態勢が有利な方にすぐ加担する見物人のなりさがり根性、こんなことをして恥とも感じない彼らを相手に二時間も振り回された私は、日本で十五年間も温め続けた理想の中国人像が音を立てて崩れていくのを感じていた。
                                                                       (完)