| 『私、わたし、ワタシ!』 「オ~コワ、このオバサン!」 東京の地下鉄車内で、大騒ぎをしながらぶつかってきた男子中学生に向かってコンコンと説教をたれた私に発せられたこの言葉。トホホ・・・・・・。私はいつからこんな怖いと言われる女になったんじゃ? 自分でも気づかないうちに大和撫子の皮は無残にもはがれ、かわいい年下の男の子をののしるまでにオバサン化しているとは・・・・・・。オバサン化を認めたくない私は、言い訳探しに鈍い頭をフル回転させた。そして辿り着いた結論は三年間の中国生活にあった。 「我跟你説(私、あんたに言っとくけど・・・・・・)」 中国人が他人に向かって連発するこの言葉。中国で私は嫌になるほど聞いてきた。タクシーの運転手との世間話の中で、百貨店での買い物の際に店員との会話の中で、大家との家賃交渉で、もうどこでもかしこでも中国人の口から連発されるのだ。 いつも「私がこう言ってるの! 私の言うこと聞きなさい!」と迫りくる中国人に対して、「あなたがお先、私は後で結構ザマス」の礼儀文化の中で育った私には、最初ビビって同意するか、怒って交流決裂になるかのどちらかの反応しかできなかった。 上海の地下鉄の乗り降りひとつをとっても中国人のこんな国民性を垣間見ることが出来る。三、四分おきにやってくる上海の地下鉄。その地下鉄を待つ乗車口はいつもごちゃっと人だかりである。乗車口の左右に順序良く並び、降りてくる人を待って乗る日本人とは大違い。 乗車口のど真ん中に陣取り、やってきた地下鉄のドアが開いた途端降りてくる人と揉みくちゃになりながら怒涛のように車内に流れ込むのが中国人である。乗車競争に勝った者は、次の車内椅子とり競争に参加できるためもう必死である。 「言っときますけどこの私がお乗りなのよ! ワタクシが!」 こんな声が聞こえてきそうな勢いである。こんな彼らにあっては、地下鉄車内にべたっと貼ってある「先下後上! 大家要文明一下!(降りる人が先で乗る人は後ですよ! 皆さん、ちょっと文明的になりまひょ!)」という政府のスローガンも空しく響く。 中国生活ヒヨヒヨの私の痛々しい経験といえば美容院での出来事。ただカットを希望した私に向かって、「我跟你説(私、あんたに言っとくわ!)あんたは髪の量が少ないんだからこれ以上切ったら見栄えが良くない。パーマをして髪を増やしなさい!」と命令調で切り出すではないか。 大きなお世話や!あんた私に命令する気なん?突然の沙汰に口あんぐりの私。 「後ろをただ五センチメートル短く切ってくれればいい。私は以前パーマしたことあって似合わへんの知っとるでせえへん!」 怒りに任せて言う私に店員はこともなげに、「パーマした方が見栄えはきっとええ。この私が保証する言うとるのに全くこの客ときたら私の言うことを聞きゃあせん!」と説教しだすではないか。この瞬間にキレた私、「客がええ言うとるんや!客に向かって説教たれるちゃあ何事や!」と叫び、水でびじょびじょの髪を振り乱し店を飛び出したのだった。 こんな風に、「あんたに言っとくけど・・・」と大声で自分の理を主張する中国人だが、笑えることに他人の主張はまるっきり聞いていない。だから議論はもちろん会話は続かないのだ。 私がパーマをかければ店に金が入りそれは自分の利益にも繋がるのだろう。そう算段した美容師は、客が嫌がってるのにパーマをしろと言い張る。中国では髪を切るのにも交渉能力が求められるのだ。 中国人はたとえ自分の側に落度があっても認めず、こちらにとっては言い訳にしか聞こえない理不尽なことにも「理」が自分の側にあるという姿勢を崩さず大声で正当性を説く。 こういう中国人と伍して生活するには、「我跟你説(私こそあんたに言っときますけど)」と言い返し、逆に押して押して押しまくらなければやっていけない。 「あなたがお先、私は後で結構ザマス」では、中国大陸でビジネスはおろか生活すらままならないのである。 「私がお先、あなたは後よ!」と己を主張し続けた中国での三年間、その生活を終え日本に帰ってきた私は、知らず知らずのうちに、ナニワのおばちゃん顔負けのパワーを炸裂させていたのだ。 (完) |