『そんなことまで・・・・・・』

中国人の友人江さん一家は、江さんのご両親、江さん、奥さん、一人娘の5人家族だ。江さん夫婦は今年で結婚10年目。江さんは大学教授、奥さんは自身でビジネスをしているのだが、すこぶる夫婦仲がよろしい。

 私が中国に来て間もない頃、彼の自宅での夕食会に招かれたことがあったのだが、その席で私は驚くべき光景を目にした。それは、大皿にてんこ盛りにされた水餃子の山でもなく、テーブルいっぱいに並べられた中華料理の数でもない。その事件は食事が始まってから起きた。

 皆で乾杯をした後、一杯目のビールを一気に飲み干した江さんが、「例の昇進の件だが、ライバルの同僚が学部長に上手く立ち回って俺を出し抜いたんだ、くそ!」と悔しそうに奥さんに告げたのだ。

 私は突然の穏やかならぬ話の登場に正直焦った。いくら友達でもこんな話を私に聞かれていいのか、それに奥さんやご両親だって食事中にそんな話は聞きたくないだろうと思ったからだ。ところが次の瞬間、目ん玉が飛び出るくらい驚くことが起きたのだ。

 奥さんが「A(同僚の名)は姑息な手段を使ったに違いない。だってあなたのほうがずっと優秀なんだから。私だって悔しい。何とかならないか考えましょう!」と夫を褒め励まし始めたのだ。夫が自分の仕事の話を進んで家族に話すのにも驚いているのに、奥さんは私の存在などまったく関係ない様子で夫を擁護し、今から家族会議をしようと持ちかけたのだ。

 驚かない人のほうがどうかしている。日本人の奥さんなら、「あなた、こんなところでそんな話なさらなくても」と夫の言動を嗜めるか、「仕事の愚痴は子どもの前で言わないで」などと逆切れするのではないだろうか。

 奥さんのこのひと言に江さんは少し溜飲が下がったのか、それからは江さんのご両親も交え、前向きな「江さん昇進戦略」が練られ始めたのだ。私はその話を聞きながら、さらに驚くべきことを発見した。

 それは、夫婦がお互いの仕事内容や職場の人間関係、同僚の名前から職位、同僚の家庭事情までも把握していることだった。知らない人が聞けば、夫婦が同じ職場に勤めていると勘違いしそうなほど詳細にだ。ということは、つまり、彼ら夫婦は日々お互いの仕事や人間関係など様々なことを話し合い議論しているということであり、そうすることでお互いの信頼関係や絆を深めているといえる。

 この江さん夫婦の会話からも分かるように、中国人にとっては、何でも打ち明け相談し、不快な気分や精神的ストレスから開放される場所が家庭であり、そうしたお互いの問題や悩みを共有することが夫婦円満の秘訣なのだ。

 一方、日本人の場合、旦那様の多くは、「家に帰ってまで仕事の話をしたくない」「疲れて帰ってきてるのにカミサンから給料や昇進など質問攻めにあったり、愚痴を言われては敵わない」と思うがどうだろうか。

 日本には昔から「男は内を言わず、女は外を言わず」という諺もある通り、男が家庭のことに口を出さずすべて妻に任せて外で働き、妻は妻で家事に専念して外での夫の仕事に対して一切口を出さないのが日本流の夫婦円満の秘訣のような気がする。

 ところが中国人夫婦の場合はまったくその逆だ。江さん夫婦は決して特殊な例ではない。「男も女も内や外を言い合い聞き合う」のが中国流の夫婦円満の秘訣なのだ。女性が仕事や家庭の悩みや愚痴を言いたがるのは洋の東西を問わず一緒だが、中国では旦那様までもが仕事の成果や仕事上のトラブル、人間関係や健康に関する悩みまで、それこそあらゆることを奥さんや家族に話すのだ。言わないのは、愛人のことくらい。
 このことを知らずに中国人の家族と付き合ったら、とんだ誤解をすることだろう。

                                                        (完)